小さな塾の開業|個人塾の経営にかかる費用や資格、必要な手続き
更新日:2023.10.2
投稿日:2022.8.24
塾は、集団指導塾だけでなく個人塾やフランチャイズ加盟による開業もできます。しかし、数多くの競合塾がある中で塾を開業する場合、経営を軌道に乗せられず赤字が続くリスクや、集客に伸び悩むリスクがあります。したがって、開業する前にリスク対策を講じておくことが必要です。
この記事では、塾を開業するにあたって必要な資格や開業資金の目安など、塾の開業準備に関する情報を紹介します。
個人塾、フランチャイズ加盟塾など塾の開業方法を選ぶときや、開業準備をスムーズに進めるための情報としてぜひお役立てください。
目次
全国にある塾の数と推移
まずは、全国にある塾の数や推移から、塾事業全体の傾向を予測して対策を講じることが重要です。ここでは、塾業界の現状と今後予想される業界全体の傾向について紹介します。
塾の数は増加傾向
総務省・経済産業省による2019年度経済構造実態調査によると、全国の塾事業所は52,699ヶ所あります。このうち「会社以外の法人・団体及び個人経営」は、31,809ヶ所です。
30年前に行われた平成11年サービス業基本調査では、学習塾の事業所は38,642ヶ所ありました。また、20年前の平成元年に行われた同調査では47,082ヶ所となっており、徐々に学習塾事業を営む事業所数が増加していることがわかります。
少子化によって子どもの数が減少している中でも、塾は30年にわたって増加しているため、今後も継続して増加していくと推察できます。
全体の約4割がフランチャイズ経営
総務省・経済産業省の2019 年経済構造実態調査報告書では、2019年度の塾事業者全体のうち、約4割にあたる22,115ヶ所の事業者がフランチャイズに加盟しています。
およそ2.5ヶ所につき1ヶ所はフランチャイズ経営を行っている塾であり、フランチャイズへの加盟は珍しくない業界です。
フランチャイズへの加盟に対するハードルが比較的低いため、塾の開業方法を検討する際の選択肢としても検討しやすいのではないでしょうか。
ただし、安易に判断するのではなく、塾の開業を予定している場所の周辺環境などを開業前の準備段階でリサーチすることが大切です。
また、オーナー個人で開業するメリットとフランチャイズに加盟するメリットは、それぞれ異なります。
そのため、個人開業とフランチャイズ加盟による開業それぞれのメリット・デメリットを把握した上で、どのような開業方法を選択するか判断しましょう。
塾の開業に資格は必要?
ここからは、塾を開業する際に必要な資格の有無や、取得しておくと塾経営において利便性の高い資格について紹介します。
教員免許は必須ではない
塾を開業する際に、教員免許の取得は必須ではありません。教員免許を取得していなくても塾は開業できますが、教員免許があると指導力が備わっているという安心感を入塾希望者や保護者に提供できます。
塾開業時に所持していると便利な資格
塾開業時に必須の資格はありませんが、取得しておくと便利な資格はあります。とくに、学歴は、入塾を検討している学生や保護者にPRできるので有利です。
「指導する講師の学歴が高い」「学生人気の高い有名大卒の講師が在籍している」などの特徴は、経営する塾の大きなPR材料になります。難関校や人気志望校を目指す受験生やその保護者に塾の強みを訴求できるため、競合塾より集客力が高くなるでしょう。個人塾などで経営者が講師を兼務する場合、経営者の学歴は高いほうが有利です。
また、塾の経営面においては経理に関する知識も欠かせません。そのため、簿記など経理の知識が得られる資格を取得しておくのもおすすめです。
個人塾を開業するとどれくらいの年収になる?
個人塾を開業したオーナーの年収目安は、500万円程度です。しかし、塾経営が軌道に乗るまでは生徒数が少ないため、開業当初は年収が100万円以下になることも珍しくありません。
塾経営が軌道に乗って複数の塾を経営するようになっていけば、将来的に年収1,000万円以上を得られる場合もあるでしょう。
塾開業時に必要なものと手続き
ここでは、塾を開業するために必要になるものや、手続きの進め方について解説します。
開業届・事業開始申告書などの提出
塾だけでなく、事業を始める際にはまず「開業届」を提出します。開業届を提出せずに事業を始めると、青色申告特別控除の65万円控除や、赤字の翌年繰り越しができなくなるためです。
開業届は、塾を開業する地域の税務署で取得・提出できます。青色申告特別控除を受けたい場合は、青色申告承認申請書も税務署で提出しておきましょう。
また、塾を事業として開始する旨を最寄りの役所に申告します。役所へ事業開始を伝えるために、事業開始申告書を提出しましょう。
事業開始申告書は、地方税の納付にかかわる書類です。開業届は所得税の申告に必要になるもので、提出先や利用目的が事業開始申告書とは異なるので注意してください。
関連記事:開業届の出し方と流れを紹介│個人事業主なら知っておきたい注意点も解説
塾を開く物件の確保
塾を開業する際、教室として利用する物件を確保しなければなりません。
予算や立地条件などを考慮し、検討している物件周辺にある競合塾の集客力やターゲット層などをリサーチしながら契約する物件を探しましょう。
塾で利用する物件を検討する際は、まず開業する塾が個人塾か集団指導塾かを明確にすることが大切です。
経営者が講師を兼務するような個人塾であれば、それほどのスペースは必要ありません。しかし、複数名の講師を雇用して、多くの生徒がかよえる集団指導塾を開業するのであれば、指導室だけでなく自習室や講師用の控室、事務室なども必要です。塾の規模にあわせて物件の広さを選びましょう。
人材の採用
オーナーが一人で塾を運営しない場合には、講師や事務、経理などを任せられる人材を採用しなければなりません。指導力や事務作業効率を考えるのであれば、採用コストは必要以上に削減しないことが大切です。
例えば、アルバイトをたくさん採用すると、人間関係の悪化などで予期せぬタイミングで退職したり、うまく人材教育ができず指導力が低下したりする原因になりかねません。
結果的に、新たな人材の募集や育成するためのコストがかかるため、開業準備段階で人件費はしっかりと確保しておきましょう。
塾の開業準備にかかる初期費用
塾の開業にかかる初期費用は、塾の規模や教室として利用する物件の立地、採用する人員の数などによって左右されます。
しかし、塾の開業準備項目ごとの初期費用目安を把握しておけば、資金をどれくらい準備すれば良いかを判断する材料になるでしょう。
ここでは、塾の開業準備にかかる初期費用や、開業後にかかるランニングコストの目安を項目ごとにわけて紹介します。
開業時にかかる費用項目
開業時にかかる準備項目ごとの費用目安は、以下のとおりです。
項目 | 費用目安 |
物件契約の初期費用 | 100~500万円 |
人件費 | 30~100万円 |
設備費(内装工事・備品代) | 100万円~200万円 |
教材費(参考書・模試など) | 10~50万円 |
広告宣伝費 | 10~50万円 |
物件の契約初期費用には敷金礼金などが含まれているため、月額賃料の3倍~5倍程度を準備しておかなければなりません。上記の費用はあくまで目安であり、超えることもあれば安く抑えられる場合もあります。
塾運営にかかるランニングコスト
塾運営にかかるランニングコスト(経費)は、売上を上回らないように注意しましょう。
2019年度の学習塾事業全体のうち、およそ半数は年間売上高が1,000万円以下の事業所です。月間売上に換算すると約80万円になります。
参照:2019年度経済構造実態調査|総務省・経済産業省
生徒数が増えて塾の規模が拡大し、売上高が伸びてくるまでは「月の売上80万円」を目安にコストを試算すると良いでしょう。
売上に対する項目ごとの割合目安から、項目ごとに割ける費用を算出して計上すれば売上を上回ることなく経営できます。しかし、開業当初は売上が伸びず赤字になることも多くあるため、必要なランニングコストを半年~1年分程度確保した上で開業することをおすすめします。
項目 | 費用目安 |
物件賃料 | 10~100万円 ※売上の20%程度が目安 |
人件費 | 8~100万円 ※売上の10%程度が目安 |
水道光熱費 | 1~10万円 ※売上の2%程度が目安 |
教材費 | 1~40万円 ※売上の1~10%程度が目安 |
広告宣伝費 | 5~50万円 ※売上の5~10%程度が目安 |
広告宣伝費は塾の開業準備だけでなく、生徒を募集し続けるために必要な費用です。
そのほか、フランチャイズに加盟して開業する場合、加盟店はランニングコストとしてロイヤリティをフランチャイズ本部に支払います。
フランチャイズを募集している企業によっては、加盟金が必要になることも少なくありません。
フランチャイズ契約後に加盟金やロイヤリティが負担にならないよう、契約内容はフランチャイズ契約を締結する前に必ず確認しておきましょう。
開業資金を工面するのに利用できる制度
開業資金を自己資金だけで補えないときは、融資を受ける方が多いのではないでしょうか。融資は、銀行から借り入れる方法だけでなく日本政策金融公庫の「新創業融資制度」も活用できます。
新創業融資制度は、担保や保証人が原則不要で最大3,000万円までの融資が受けられるものです。
参照:新創業融資制度|日本政策金融公庫
ただし、自己資金ゼロでは融資審査に通らない可能性があるため、融資を希望する金額の10%程度の自己資金は準備しておきましょう。
塾のフランチャイズに加盟するメリット・デメリット
塾の開業にあたり「個人塾を選択するか」「フランチャイズに加盟するか」という選択肢で悩むこともあるでしょう。
開業資金が多くあれば、集団指導塾など生徒数の多い塾も開業できます。しかし、はじめて塾事業に参入する場合、まずは「小規模の個人塾から始めたい」と考える方も多いのではないでしょうか。
ここからは、塾を開業する際にフランチャイズに加盟した場合のメリット・デメリットを紹介します。
フランチャイズに加盟するか、個人塾を開業するか迷っている際の判断材料にお役立てください。
メリット
まずは、塾をフランチャイズに加盟して開業するメリットを紹介します。
フランチャイズ本店のブランド力を利用できる
フランチャイズに加盟して塾を開業すると、フランチャイズ本店のブランド力を利用できるメリットがあります。
フランチャイズ本店のブランド力が高ければ、ターゲットとなる学生や保護者に認知されやすいのです。
認知されやすい塾であれば広告宣伝に費用をかける必要がないため、初期費用やランニングコストも抑えられます。
個人塾の場合、上述のとおりランニングコストとして月額売上のうち5~10%程度の宣伝広告費が必要です。
一方で、フランチャイズ加盟による開業の場合、「開業時の宣伝広告費を100万円程度支援してくれる」「生徒数が〇名を超えるまで広告費は全額本部が負担してくれる」、などのバックアップが受けられるメリットがあります。
フランチャイズ本部のブランド力に加えて、広告宣伝にかかる費用の支援が受けられるため、安心して塾事業をスタートできるでしょう。
アプリなどクオリティの高いシステムが使える
フランチャイズ本部が作成したシステムを利用できるのも、塾開業時にフランチャイズへ加盟するメリットです。
例えば、
- 出欠確認
- 過去の模試結果の振り返り
- 講習やテストなどのスケジュール確認
なども、フランチャイズ本部が提供しているアプリ次第でデジタル化できます。
塾に通う生徒や保護者にとっても、アプリで手軽に欠席連絡やスケジュール確認などができるのは利便性が高いため、塾利用者の満足度向上につながるでしょう。
このようなアプリなどのシステムを個人で開発するのは、膨大なコストがかかるものです。
フランチャイズに加盟すれば、上述のアプリのようなクオリティの高いシステムが利用できるため、個人塾よりもシステム面での利便性は高くなるでしょう。
指導や経営に関するノウハウが蓄積されている
フランチャイズ本部には、塾経営や生徒指導などのノウハウが蓄積されているのも特徴です。
フランチャイズに加盟せずに個人塾を開業すると、経営や指導方法に関するノウハウがないまま手探りでスタートしなければなりません。
一方で、フランチャイズに加盟すれば本部のノウハウを活用できるため、開業時からクオリティの高い指導方法を実践できます。
多くの塾事業を支援してきたフランチャイズ企業では、効率良く生徒の成績を上げるためのカリキュラムや指導方法、集客に効果的な宣伝方法などのノウハウが蓄積されています。
フランチャイズに加盟して塾を開業すれば、開業時点からフランチャイズ本部のノウハウを活用できるため、指導力不足や経営ノウハウ不足による赤字リスクなどを軽減できるでしょう。
デメリット
フランチャイズに加盟して塾を開業するのは、メリットばかりではありません。以下のデメリットがあることを踏まえ、フランチャイズに加盟すべきかを判断しましょう。
ロイヤリティを支払う必要がある
フランチャイズに加盟して塾を開業するデメリットは、本部に対してロイヤリティを支払わなければならない点です。売上からロイヤリティを負担すれば、収益は減少します。
ロイヤリティの有無や金額は、フランチャイズ企業によって異なります。毎月3~5万円程度の金額が固定された契約もあれば、売上に対して5~10%程度の支払いが必要になるところなどさまざまです。
毎月の支出としてロイヤリティを計上する場合、塾が事業として軌道にのって安定するまで大きな負担になる場合もあるでしょう。
個性を出すのは難しい
フランチャイズに加盟すると、フランチャイズ本店が指定するカリキュラムや指導方法で塾を運営しなければなりません。
また、フランチャイズ本店のブランド力を利用できる一方で、看板や塾のレイアウトなどが画一的になるため、個性を出すのは難しい傾向にあります。
また、塾の利用料金なども統一されることが多く、オーナーの判断で価格設定を変更できない場合があります。
フランチャイズ契約締結後に自由な経営ができず悩むことがないよう、契約締結前に契約内容を確認し、加盟するフランチャイズ企業を比較することが大切です。
関連記事:フランチャイズのメリット・デメリット│FC業界のプロが解説
塾の経営リスクを回避する3つのポイント
塾の事業者数は年々増加傾向にあり、競合する事業者も多くあります。そのような中で塾経営を行うには、さきほど挙げたデメリットのほか、生徒数が思うように増えず赤字が長期化するリスクがあります。
具体的には「生徒数が伸びず売上が低迷してコストが経営を圧迫する」「ほかの塾と差別化が難しいため競合塾に生徒が流れて集客に伸び悩む」ことが、塾を開業する上で危惧すべき点です。
塾を開業するにあたり、こういったリスクを回避するためのポイントを把握しておくことが大切です。ここからは、塾経営におけるリスクを回避するための3つのポイントを紹介します。
コストを抑えて開業する
塾経営における最初のリスクは、開業時の初期費用をなかなか回収できず、赤字が長期化することです。
ランニングコストを抑えることも大切ですが、まずは初期費用をできるだけかけない開業を意識しましょう。例えば、物件の賃料を抑えれば、初期費用だけでなく毎月のコストダウンにつながります。
また、広告宣伝費の効果的な活用方法を検討して生徒が集まりやすい媒体を選択し、コストパフォーマンスを最大化するのも良いでしょう。
オンライン化に対応する
新型コロナウイルスの流行により、外出自粛のためのリモート学習が必要不可欠になりました。また、塾への通学時間を削減するために「在宅で講義を受けたい」というニーズも少なくありません。
リモート授業を取り入れてオンライン化に対応すれば、遠隔で授業に参加したい生徒のニーズを満たせます。
オンライン化に対応すれば教室に通える圏外生徒も募集可能になり、遠方の生徒にも入塾してもらえるため、塾の経営を軌道にのせやすくなるでしょう。
フランチャイズへの加盟を検討する
塾経営で赤字に陥るリスク・集客ができないリスクを回避するための手段として、フランチャイズへの加盟も選択肢の1つです。
上述のとおり、本部のノウハウやブランド力、ハイクオリティなシステムを活用して事業をスタートできるため、個人塾と比べて開業時の集客力に差が出ます。
集客力が高ければ開業後の早い段階で経営を軌道にのせられるので、赤字が続くリスクを軽減できるでしょう。
フランチャイズに加盟して塾を開業するならマッチングサービス!
塾を開業する際にフランチャイズへ加盟するのであれば、マッチングサービスを活用しましょう。
マッチングサービスを活用すれば、数多くあるフランチャイズ企業それぞれの特色やロイヤリティの差、サポート内容などをスムーズに比較できます。
「希望条件にマッチするフランチャイズ企業を探したい」という場合には、マッチングサービスで気になるフランチャイズ企業をチェックしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
塾を開業する事業者が年々増加していることから、競合する事業者が多くなっているといえます。
少子高齢化によって学習塾に通う生徒の母数が減少する中で、塾経営を成功させるためには、経営リスクを避けることが大切です。
個人での開業が不安なときは、まずフランチャイズに加盟して開業し、塾経営のノウハウを学ぶことから始めてみてはいかがでしょうか。
著者情報
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