「独立は視野を広げるため」3つの事業を手がけ、ハイブリッドな人生を送るFC飲食業・福祉事業の経営者&音楽家
更新日:2023.5.1
投稿日:2023.1.11
大企業でも倒産するかもしれない……不安定な時代だからこそ起業して自分の力で生きていこうという風潮が高まりつつある昨今。
でもどうやったらいいのかわからない、自信がないなどの理由で踏みとどまっている方も多い中、音楽家、FC飲食業、福祉事業と一般的には大変だと言われている事業を展開しさらに拡大させている溝口哲矢さん。
3つもの事業をどのようにして起業したのか。考え方や仕事に対する姿勢、今後の展望など詳しくお話をお伺いいたしました。
目次
これまでのご経歴と、今の活動内容を教えてください。
茨城県土浦市出身で、音楽大学を卒業し同音大附属高校の楽器講師とウインドオーケストラの常任指揮者をしながら家業の株式会社溝口商店(1952年創業)の代表取締役に就任し、FC飲食業「牛角」(2001年2月~)を引き継ぎました。
また2020年9月には新たにFC契約店舗で日乃屋カレーをオープンしています。実は日乃屋カレーは全国的に80店舗ありますが、茨城には私の経営するお店のみです。後にご紹介しますがもう一店舗、茨城県の守谷市役所内に2022年11月にオープンしました。
一方で母の病をきっかけに2015年、一般社団法人「恵匠会」を開業しました。地元の土浦市で就労継続支援A型の事業所「ワークステーション土浦」を運営しています。就労継続支援A型とは、軽度の障がいをもつ方の一般の就労に向けた訓練や指導を行う事業です。
10月には新たにKindle出版にも挑戦し、「音楽で食えないはウソ!!!」を出版しAmazonランキング6冠をいただきました。さらに11月には新事業所を開業してFC飲食業と抱き合わせるなど様々な可能性を模索しています。
なぜ独立を決意されましたか?背景やきっかけ、転機などを教えてください。
背景はたくさんありますね。もともと商いをしていた家柄もあります。
ただ両親の教育方針が「好きなことをやらせたい」ということで、自由にさせてもらって。本当に好きなことを突き詰めて音楽家になりました。でもそれだけでは視野が狭いし、クラシック音楽が生活に根付いているヨーロッパとは違い、日本で音楽だけを生活の柱にすることはかなり不安定だと感じました。
好きなことをするためにも生活の柱を持っておくほうが安心だったんです。会社員でもよいのでしょうが、音楽もすでに仕事としてやっていたので継続したいのと視野を広げたいという目的もあったので、独立して経営者になろうと思いました。
なぜフランチャイズでの起業だったのですか?
単純に私にノウハウがないからです。私自身がオーナーシェフなら話は別ですが、音楽家なので……。FC飲食業は投資だと思って始めました。
「人のふんどしで相撲をとる」という言葉がありますが、その気持ちを忘れずにいたいと思います。私はむしろとらせていただきありがとうございます!と思っています。そしてもともと溝口商店は「牛角」で肉を扱っていたので、肉を使うカレーでの参入はしやすかったのです。
日乃屋カレーは、音高(音楽大学附属高等学校の略)の講師時代にラ・フォルジュルネというイベントで東京国際フォーラムに毎年行っていてその時に出会いそのカレーの味が好きだったことから参入を決めました。もちろん茨城に1件もなかったことも選んだ理由の一つです。
ロイヤリティや加盟金などお金がかかる部分もありますがブランド力に助けられている部分が大きいですね。
今回のコロナ禍で飲食業はかなり追い詰められましたが、「牛角」「日乃屋カレー」というブランド力のお陰もありお店は守れました。
なぜ福祉事業での起業だったのですか?
きっかけは母の病です。若年性アルツハイマー病で16~17年闘病しました。私自身も20代で介護をすることになりました。仕事をしながらの介護だったので、当時住んでいた埼玉県川越市と実家の茨城県土浦市を往復する日々でした。
介護をしているときに「母は今何を思っているのだろう」「仕事をしたくてもできないのはつらいだろうな」などさまざまなことを考えました。そしてたまたま私の叔父が福祉施設で就労支援をしていたので話を聞いたり、大学時代の先輩で介護職をしている先輩がいたので相談に行ったりしていました。
そんなことをしているうちに障がいを持った人の役に立つことをしたいと思い、2年ほどの準備期間を経て起業しました。
音楽講師、FC事業とすでに2つの事業があり、3つ目に福祉事業。興味があったとしても2つ事業をもちつつの起業は勇気のいる決断だったのではないですか?
勇気はいりました。やるべきかやらないべきか迷っていたのですが、その頃に大学時代からお世話になっていた先輩に会って。その方が今福祉事業に携わっていると聞き相談に行きました。
事業にとって人やお金というのは大事な要素です。自分の右腕になってくれるような人がいないと始められません。話を聞くうちに私の意志も固まりまして、「私の事業の右腕になってほしい」と彼に頭を下げて了承してもらいました。それが福祉事業もやると決めたきっかけです。
なぜ就労継続支援A型の事業を選びましたか?
A型でもB型でも難しさはそれぞれにありますが、自分の持っているツテを考えた時にA型事業のほうが自分にとっては合っていると思ったからです。
就労継続支援にはA型とB型2種類あり、大きな違いは「障がいの度合」と「雇用契約を結んで働くかどうか」です。
対象年齢は、A型では原則18歳から65歳未満の人を対象としているのに対し、就労継続支援B型を利用するには基本的に年齢制限はありません。また雇用契約に関しては、A型は雇用関係を結び、B型は雇用関係を結びません。B型の方が障がいの程度は重いことが多いため、A型より福祉の知識が必要です。私は経営のノウハウやツテを持っていますが、福祉事業に関する知識はこれからでした。初めての起業だったのでまずは自分のやりやすい方を選びました。
大切にしている価値観についてお伺いします。
溝口さんにとって「独立」とは?
自分の手足で歩いていくことですね。食べていくための生活の柱です。会社員だってなんだって良いと思いますよ。ちゃんと生活のための柱を持っていることが大切なので。ただ音楽家はどうしてもフリーランスだと来月どうしよう?という生き方になりがちなのです。私は音高で講師をしていたのでそんなことはありませんでしたが。
私は独立するほうが音楽も続けられるし視野が広がると思ったので独立を選びました。
ただ独立するといっても事業はいきなりうまくいくというより、段階を経て育てていくものですね。会社員では経験できない視野の広さを手に入れることはできますし、自分がやったことの反応がダイレクトに返ってくるので面白くもあります。好きなことをするために生活を安定させる基盤ですね。
私は音高の講師時代に恵匠会の福祉事業(就労継続支援A型事業 ワークステーション土浦)の起業をしました。その事業が軌道に乗り始めたタイミングで講師を退職し茨城に帰る決意をしました。家業の溝口商店を継いだのはそのあとです。独立も、いきなりすべてをやめて新しいことを始めないで徐々にシフトしていくほうがいいかもしれませんね。
独立に必要なテクニックはありますか?
あまり頑張りすぎないことですかね。焦りすぎない。不安に感じていることのうち9割は、ただの不安で消えます。実際には起きないのです。(1割は起きますが……)
まずは体験してみること。やりたいと思ったら身近な人と相談できるだけの人間関係を構築しておくことだと思います。仕事内容にもよりますが、たいてい起業はひとりではできません。
人との関りはもちろん面倒な面もあります。いざこざに巻き込まれてしまうこともないとはいえません。実際に私もひとりで起業することはできませんでした。福祉事業のことをなにも知らなかったので、叔父や先輩に話を聞きに行くところから始まっています。
私自身には福祉事業の知識が少なかったけれど、専門家の協力を得て起業することができ継続しています。2年も準備期間はいらなかったなと今では思いますが。
独立で避けたほうがよい、気を付けたほうがよいことはありますか?
知らないものを知らないといえないことですね。始めたばっかりなんてわからないことだらけなんだから!「わかりません、教えてください」って謙虚になれることが大切です。
強気も大事なのですがそれだけで予防線を張ることや、自分にしかわからないようなこだわりを全面に出してしまうのはもったいないなと感じます。素直にわからないことは聞きましょう!諸先輩方はその姿勢を見ています。きっと教えてくれますよ。
最初は自分を大きく見せたくなります。しかし知らないことは恥ずかしいことではありません。素直に謙虚な姿勢で教えてもらいましょう。
今後の目標を教えてください。
2022年11月から一般社団法人恵匠会で新たな就労継続支援A型の事業所を開業しました。
事業名は「ワークステーションみらい平」です。こちらは自己紹介でも少し紹介しましたが、茨城県守谷市役所内のレストランが主な就労先になっています。。市役所内のレストランのカレーメニューは、先ほど取り上げた日乃屋カレーがサテライトで入っております。
実は市役所内や公共施設のレストランというのは、レストランそのものだけの経営では赤字になってしまうことがほとんどです。理由は、レストランとしての機能だけではなく休憩所としての役割も担っているため回転率が悪いこと、ランチ時のみの運営であること、客層が限られることなどが原因です。しかし、就労支援事業での運営ならば円滑な運営を目指せます。
人件費削減により利益を確保し、赤字経営になることを防いでいます。こちらの事業も継続できるようにしたいですね。よく拡大することがすごいといわれがちですが、私は継続することがまず第一だと考えています。
さらに2023年、恵匠会では福祉事業の他に地域活性化と音楽を掛け合わせた音楽人材バンク「ミュージックアシスト茨城」を始動しようとしています。
具体的な活動は2つあり、講師派遣型と地域移行型の事業です。講師派遣型としては、中学校や高等学校の吹奏楽部に講師として音大生やフリーランスの音楽家を派遣すること。地域移行型としては、一般の吹奏楽団の方々に講師になってもらい地域の子供たちに音楽や楽器の楽しさを教える事業です。
昨今教員の労働時間削減が叫ばれています。特に部活動は、教員ではなく外部講師に任せる動きが運動部では活発になっています。あまり知られていないかもしれませんが。吹奏楽部の活動時間は運動部並みです。そして専門性も必要なため、外部講師に依頼する流れが来ています。
今のうちから指導できる人材を育ててすぐに移行できるように準備を進めています。2023年1月から3月にプレオープンとして始動していくつもりです。
最後に独立を考えている方へメッセージをお願いします。
独立するときには、自分でどんなスケールの事業にするのか、規模感を考えることをお勧めします。その後の広がりは、始めるときにはわかりません。でも自分がどんな事業をどんな規模感でやるか決めておかないと、どのくらいの人を雇うのか、どのくらいのお金が必要なのかわからなくなってしまいます。
好きなこと、やりたいことをやるにしても規模感を押さえておくことは重要です。
頑張ってください!
ありがとうございました。溝口さんの今後のご活躍を応援しています。
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著者情報
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フランチャイズ経営者やフリーランス、法人役員など、多種多様なキャリアをもつメンバーでお届けしています。
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