シニア起業でやってはいけないことと事業を成功に導くポイント
更新日:2023.10.5
投稿日:2023.6.14
定年後の充実したセカンドライフに、起業を考えている人もいるでしょう。シニア世代(55歳〜)は若手と比べ資金力があり、経験や実績も充分です。しかし若手のように何度も挑戦する時間的余裕がないため、失敗が許されません。
本記事ではシニア起業でやってはいけないことを6つ紹介します。根拠を示しながら、一つひとつ説明します。また確実に成功するビジネスを構築する秘訣を、事業の計画段階から運営まで順を追って解説します。
「現役時代と同じくらいのお金を毎月得られる?」
「個人事業と法人設立のどちらを選ぶべき?」
「銀行から融資は受けたほうがいいの?」
「自分自身で行うことと、他人に頼ることを見わける方法は?」
など、さまざまな疑問が解決できるでしょう。
記事の最後には、シニア起業で成功した事例も紹介します。これから動き出すあなたに、起業へと突き進む希望を与えてくれます。
目次
シニア起業で絶対にやってはいけないこと6選
起業前に知っておきたい、6つのやってはいけないポイントを説明します。
- 身の丈にあわない事業規模で起業する
- 体力を使う事業を手がける
- 顧客をひとりも獲得せずに事業を始める
- 儲けだけを目的にする
- やりがいや社会奉仕だけを目的にする
- 資金調達で不十分な事業計画をする
シニア起業では絶対にやってはいけないことがあります。大きな資金や体力が必要な事業、成功の可能性が低い事業への挑戦です。
シニア世代が仕事を楽しめる時間は無限ではありません。大きな病気にかかれば、仕事ができなくなる恐れがあります。できる限り一度の起業で成功できるよう、策を練らなければなりません。
身の丈にあわない事業規模で起業する
身の丈にあわない事業規模での起業が、やってはいけないことの1つ目です。
シニア世代には、これまでの実績と経験から、立ち上げる事業に絶対的な自信を持っている人がいます。
しかし、スタートから大きなオフィスを構えたり、従業員を多数抱えたりすることはおすすめしません。オフィスの賃貸料や人件費で資金繰りが立ち行かなくなる可能性があります。
また、あなた自身の健康面も考える必要があります。病気で倒れて仕事を継続できなくなっても、従業員への給与支払いや、融資の返済義務がなくなるわけではありません。
とくに起業経験がない人は大風呂敷を広げずに、スモールビジネスで起業するのがおすすめです。
体力を使う事業を手がける
シニア世代が体力を使う事業を手がけるのは避けるべきです。「身体が丈夫だから大丈夫」と自負しても、体力の衰えは確実にあらわれます。
スポーツ庁の「令和3年度体力・運動能力調査結果の概要」を参照すると、「新体力テストの合計点」は年齢とともに直線的に低下しています。運動能力で、年を重ねて伸びている項目はありません。(成人前を除く)
(参照:令和3年度体力・運動能力調査結果の概要 | スポーツ庁)
60歳で起業し75歳まで働くとしましょう。15年の期間で徐々に体力は低下します。最初は体力に自信があっても、次第に仕事を続けられなくなるかもしれません。
無理のない仕事をするために、体が弱っても継続しやすい事業内容を選ぶことをおすすめします。
顧客をひとりも獲得せずに事業を始める
顧客をひとりも獲得せずに事業を見切り発車するのも危険です。事業を軌道に乗せられるだけの顧客を見込んでから起業しましょう。
シニア世代の場合、「これまで獲得した顧客がいる」「多方面の人脈がある」ことを根拠に、実際に仕事が獲得できるか不透明なうちに事業を開始しがちです。
しかし、あてにしている人たちは、あくまでも以前の会社をとおした付きあいです。個人になって、仕事をくれるかはわかりません。
事業を開始するまでに確実に仕事が取れる相手を見つけ、生活に必要な収入を得られるかを確認しましょう。
儲けだけを目的にする
老後の生活を安定させることばかりを考える人がいます。儲け一辺倒に走ると、長く仕事を続けられません。儲けだけでなく、やりがいに目を向けることも重要です。
お金を稼ぐだけなら、起業でなくても継続雇用やアルバイトなど、さまざまな方法があります。起業の良さは、誰にも縛られず、好きな仕事で社会貢献できることです。
だからこそやりがいを感じられます。儲かるだけで好きではない仕事をしても、やりがいには結びつきません。
やりがいや社会奉仕だけを目的にする
やりがいや社会奉仕だけを目的に起業するのもおすすめしません。
ビジネスの目的は、利益を出すことです。儲けがなければ、趣味やボランティア活動として力を注いだほうが良いかもしれません。
顧客に価値を提供し、その対価を得ることで儲けは生まれます。ビジネスを始めるなら利益は無視できないのです。
資金調達で不十分な事業計画をする
資金調達のために、融資や借金を簡単に考えるのは危険です。
返済計画も甘く見立てないほうが良いでしょう。シニア世代が考慮すべきは、健康問題で仕事を継続できなくなる可能性です。
また失敗したときのリスクも考え、借金だけ残る状態は避けなければなりません。
経験と実績があれば融資は簡単だと考える
起業を決意したらすぐに融資を考える人がいます。しかし融資は返済義務があることを忘れてはなりません。
シニア起業で利用しやすい融資に日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」があります。
この融資の返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金は7年以内です。返済を終えるまでの間、健康に事業を続けていられる保証はありません。
(参照:女性、若者/シニア起業家支援資金 | 日本政策金融公庫)
シニア世代は融資を受けやすい条件が揃っています。会社員時代の実績や経験は、仕事の成功率を裏付ける武器になります。
自己資金も多く、融資元はお金を貸しやすい状態です。だからといって簡単にお金を借りず、ご自分の健康状態や事業の継続性をしっかりと見定めることが重要です。
自己資金の不足を身内からの借金で補う
起業での自己資金の不足を、身内からの借金で補填するのも避けるべきです。
失敗して返済できなくなった場合、親類に大きな負担や迷惑をかけることになります。場合によっては、関係が悪くなり、除け者にされながら生きる羽目になるかもしれません。
知っておきたいシニア起業のリスク
シニア起業にはリスクがあります。
リスクを考えずに、起業した後に失敗しないよう、あらかじめ詳細を知り対策を練りましょう。
事業の継続をおびやかす健康リスク
シニア起業で事業を継続できるかは、あなたの健康状態に大きく左右されます。年齢を重ねるほどに健康問題も起こりやすくなり、重大な病気を発症する可能性も上がります。
日本人の死因となる三大疾病(がん、心疾患、脳血管疾患)での死亡者数は、がんは79歳、心疾患・脳血管疾患は89歳ころまで年齢とともに増加を続けます。
中でもがんは55歳以降、急激に死亡者数が増加します。いつ病に倒れても不思議はありません。
(参照:死因順位(第5位まで)別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合 | 厚生労働省)
<リスク回避方法>
日ごろから健康診断やがん検診を受診し自身の健康に留意しましょう。病気で事業が継続不能になる可能性があるため、自分の手に負える範囲内で事業を進めることが大切です。
起業家としての適性がないリスク
性格的に起業に向いていない人もいます。安定志向の人と、人付きあいが苦手な人です。起業に向かない人は、事業をうまく進められない可能性があります。
保守的な志向の人
起業に保守的な志向は向いていません。保守的とは「現状を変えたくない」と変化を避ける考え方です。
一つ失敗したらすぐに次のプランに移れるくらい、柔軟に挑戦する姿勢が求められます。新たなアイデアで走り続けることで、徐々に安定を獲得します。最初から安定を求めてはなにもできません。
人付きあいが苦手な人
人付きあいが苦手な人は、営業に向いておらず、新たな顧客を獲得できません。起業をするなら、どんな人の中にも飛び込み、すぐに仲良くなれる性格が有利です。
会社の中では、人付きあいのうまさははかれません。何十年も同じ会社に勤めていれば、どんなに無愛想な人でもコミュニケーションが取れるでしょう。
さらにシニア世代には周りが気を遣い、積極的に話しかけてくれます。自分の営業力を知るには、会社の外に出てコミュニケーション能力をはかる必要があります。
<リスク回避方法>
起業家に必要なスキルを鍛えましょう。フリーランスの立場で求人サイトやクラウドソーシングを利用し、業務請負の仕事を探すのがおすすめです。
近年は数多くの案件が募集されており、インターネット上でのやり取りだけで完結する仕事が多いため、顧客獲得に自信がない人も始めやすいでしょう。
また、柔軟に対応することや、クライアントとのコミュニケーションも学べます。
会社員だからこそあった信用力を活かせないリスク
あなたがこれまで仕事を数多くこなし、広い人脈を培ってこられたのは、土台に会社の信用力があります。会社の後ろ盾がなくなったとき、自身にどれだけ信用があり、人脈があるかを考えましょう。
会社員時代に会社をとおして獲得した付きあいは、あまりあてになりません。会社員時代の顧客は、引き続き同じ会社に仕事を依頼するからです。
起業するのなら、自身の営業力を高めなければなりません。
<リスク回避方法>
営業力を高めるだけでなく、以下に該当する人たちとの付きあいを大切にすれば、仕事を得やすくなります。
- 会社間の付きあいから個人の関係に発展した人
- 会社員時代の仲間
- あなたの能力を見込み、あなたが退職しても仕事をお願いしてくれる熱心なファン
これらの人たちは、あなたがこれまでに獲得した宝です。熱心な営業活動をしなくても顧客になってくれる可能性があります。
身につけたスキルがすぐに古くなるリスク
シニア世代にとって、長年培ったスキルは起業への自信に繋がります。しかしどんなスキルでも、古くなることや通用しなくなることも忘れないでください。
昨今はAIの進化で、コンピューターやロボットが人間の仕事を代替できるようになりました。必要な仕事の形も、今後徐々に変わっていくでしょう。
たとえば運転手の仕事は、自動運転が主流になればなくなります。その代わり、自動運転を制御する仕事が必要になります。
これからの起業には、未来を予測し自らのスキルをアップデートする姿勢を忘れてはなりません。
<リスク回避方法>
10年、20年経っても確実に残る仕事に従事するのが、一番の方法です。
しかし現代は技術の進化が速いため、なにが残る仕事か判断するのは容易ではありません。ひとまずは5年先の未来を見据え、続けられる仕事をします。
そして5年の間に、次なるニーズに対応できるよう、必要なスキルを身につけ、事業を変革すれば良いでしょう。
関連記事:これから伸びる10業界!今後縮小する業界と将来性のある資格も紹介
シニア起業で失敗しない事業の選び方
シニア起業での失敗を防ぐには、事業の選択が最も大切です。社会のニーズや事業の継続性を冷静に分析し、慎重に事業内容を決定しましょう。ここでは2つの要点を説明します。
保有スキルとニーズの両面から考える
スキルや知識を活かせる事業を選びます。
ただし、事業内容を保有スキルだけで安易に決めるのは避けましょう。どんなに優秀なスキルがあっても、社会にニーズがなければ仕事になりません。
たとえばあなたが特定の会社の工業部品をつくることに長けた職人でも、それがほかの会社からも広く求められなければ、仕事は得られないでしょう。
取引先が固定されている場合、あなたの保有するスキルは一般社会のニーズと適合しない可能性があります。
会社で必要とされるスキルは限定的だと認識し、慎重にニーズを探らなければなりません。以下のステップで考えてみましょう。
- 活かせるスキル・知識を整理する
- 社会のニーズを探る
- スキルとニーズがあう事業を考える
ニーズを探るには、近隣の同業他社の経営状況を調べるのが手っ取り早いでしょう。
リサーチができなければ、あなたの身の回りの人に意見を求めます。家族や友人、会社員時代の後輩などです。あなたの商品やサービスを本当に欲しいか、率直な意見を出してもらいましょう。
あなたの保有スキルと社会のニーズにずれを感じるなら、起業時期を遅らせてでも、事業内容を変更しましょう。保有スキルをニーズのある方向に寄せなければなりません。
事業の継続性を見極める
起業するさいには事業の継続性も見極めます。
老後の生活基盤を築くためにも、充実した職業人生を全うするためにも、短期間しか持続できない事業は避けるべきです。
事業の継続性を判断するには、3つの視点を持ちます。
- 社会の変化を予測する
- 社会の変化に業界がどのように対応するか予測する
- これらの変化に自分はどう対応するか方針を固める
まずは①です。未来の社会を予測し、変化した後もあなたの事業に変わらぬニーズがあることを確認します。
次に②で、同業者がどのように商品やサービスを変更するか予測します。その変化の中で、あなた自身が淘汰されずに戦っていけることを確認しましょう。
さいごに③で、①②の変化にあなたがどう対応するか方針を決めます。
たとえば、これから社会がサブスクリプションサービスを求め、競合他社がサブスクリプション型のビジネスモデルを展開すると予測するなら、この変化にあなたがどう対応するか方針を決めます。
方針が定まらないようなら、一度起業を保留し、計画を練り直したほうが良いでしょう。
シニア起業で成功しやすい起業方法
シニア起業は自分の手に負える範囲で行うことが大切です。できる限り一人または少人数で、事業の全体像を把握できる状態にとどめます。
できるなら融資も行わず、借り入れのない状態でスタートできると良いでしょう。
いつ健康問題が発生しても対応できるようにするためです。できる限りリスクを減らしておけば、万一事業が停止しても対処しやすいのです。
スモールビジネスでリスクを減らす
高齢での起業になればなるほど、リスクを避けスモールビジネスでスタートするべきです。
スモールビジネスなら、法人でもフリーランスでも形式は問いません。できる限りあなた一人で事業を進めていれば、すべての責任をあなた自身で負えます。
健康問題で事業を中断する事態になっても、従業員の生活に配慮する必要はありません。
できる限り自己資金でスタートする
できる限り自己資金でスタートする姿勢も大切です。融資には返済の義務があります。
事業がうまくいかなくても、健康問題で休業しても、借りたお金は返さなければなりません。自己資金でどうにかなるのであれば、それに越したことはないのです。
ただし、自己資金のみでやりたいことがまったくできないなら、融資も視野にいれるべきです。
やりたいことを諦め不本意な形で起業するのは、「健康が続く限り仕事を楽しむ」姿勢と結びつきません。初期投資に大きなお金が必要なら、融資は避けてとおれないでしょう。
なお、銀行の融資は新規開業には利用できません。第1章でご紹介した日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」が利用しやすいでしょう。
成功するために事業運営では差別化を意識する
シニア起業で成功するためには、事業運営でも意識するべきことがあります。他社と差別化できるポイントを持つことです。
シニア起業では、成功するかわからない事業は手がけられません。
健康寿命がいつまで続くかわからないからです。おのずと誰かが成功したものをなぞる形になり、独自性が見つけられないと感じるかもしれません。
しかし事業の差別化が図れないのかと言われれば、そうではありません。シニア世代のあなたには、さまざまな経験があります。経験も差別化の武器になります。
たとえば同じ仕事で数社を渡り歩いてきた人なら、仕事を多角的な視点で見られるはずです。
各社の事業への考え方を知っており、仕事での成功と失敗も多く積み重ねています。それらを反映させれば、より顧客の心をつかむ商品やサービスを展開できるでしょう。
シニア世代には、「豊富な経験」という若手にはない武器があります。それを積極的に商品やサービスと結びつけることで、他社と差別化を図るブランディングができるのです。
詳細は『効果的なブランディングとは?顧客に選ばれ続ける会社の実践的なつくり方』をご覧ください。
退職後スモールビジネスから会社を大きくした例
さいごに、シニア起業の成功例をご紹介します。
ペットシッター「愛犬のお散歩屋さん」の古田弘二社長は、大手化粧品会社を早期退職後、ペットシッターを起業しました。きっかけは、愛犬の散歩中にほかの飼い主から散歩の依頼を受けたことです。
旅行や病気などで犬の散歩を他人に依頼するニーズがあることを知り、起業に結びつけました。古田さんにとって、ペットシッターは、好きなこと・やりたいことと社会のニーズが合致する仕事だったのです。
はじめは犬を飼っている家にポスティングをしながら地道に営業しましたが、メディア出演と本の出版で一気に知名度を上げました。
今では70件のフランチャイズを抱える(現在は新規募集を停止中)FC本部に成長しています。
古田さんのビジネスには以下の特徴があります。
- 好きなことと社会のニーズが合致していること
- スモールビジネスからセルフブランディングで会社を大きくしたこと
まさに本記事で説明した起業姿勢のお手本と言える事例です。
関連記事:シニア起業の成功事例からメリット・注意点までを網羅解説
さいごに
シニア起業にはやってはいけないことがあります。
- 身の丈にあわない事業規模で起業する
- 体力を使う事業を始める
- 顧客を一人も獲得せずに事業を始める
- 儲けだけを目的にする
- やりがいや社会奉仕だけを目的にする
- 資金調達は簡単だと甘い予測を立てる
シニア世代は若手ほど健康に過ごせる時間が長くありません。そのため起業のチャンスは一度きりです。これらの項目は失敗を避けるために必須です。
またシニア起業特有のリスクも理解する必要があります。
- 健康問題が起こりやすい
- 会社員感覚が抜けきらないと、起業の向き不向きを判断しにくい
- 会社の信用を個人の信用と勘違いしやすい
- 身につけたスキルはすぐに古くなる
できる限りリスクを減らすために、あらかじめ必要な対策を練るようにしましょう。
起業に向け実際の準備を始めるときは、事業内容の決定から始めます。そのさい、以下の2点を考慮しましょう。
- 保有スキルとニーズの両方を満たすこと
- 長く継続できる見込みがあること
これらを満たさない事業は、いざ会社を起こしても長く続きません。
また起業するときは、
- スモールビジネスで起業すること
- できる限り自己資金で賄うこと
を強く意識してください。自分の手に負える範囲で小さくスタートし、徐々に会社を大きくしていくのが理想です。
事業を開始したら、自分だけの強みを見つけ出し、他社との差別化を図りましょう。あなたのこれまでの経験を活かせば、若手にはない魅力あるビジネスを構築できるはずです。
起業に関するより詳しい内容は、DokTechの会員向け記事でご案内しています。たとえば、
- 説得力のある事業計画書の作成方法
- 事業の未来予測の方法
- 収益性の検証方法
などです。
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