シニア起業の成功事例からメリット・注意点までを網羅解説
更新日:2023.10.2
投稿日:2023.4.17
人生100年時代が到来し、定年以降は正社員での継続雇用や業務委託などさまざまな働き方が選べるようになってきています。その中で、今注目されているのが「シニア起業」です。
55歳以上の「シニア世代」には熟練した技と豊富な人生経験があります。経験を活かし起業すれば、健康が続く限りやりがいを感じながら仕事を継続できるでしょう。
しかし多くの人にとって起業は初めての経験です。「人生最後の大きな選択」でもあります。正しい選択をして起業をするには、シニア起業を成功させるための知識をつけることが重要です。
今回は起業へのファーストステップとなる「知識の習得」を3つのポイントから説明します。
・シニア起業のメリットとデメリット、注意点
・シニア起業の成功ポイント
・助成金や融資制度の考え方
本記事で要点や注意点を理解した上で、自信を持って起業準備に望みましょう。
目次
シニア起業家が増加中!現状と起業理由
年々シニア起業家の数は増えつつあります。
本章ではその裏づけとなるデータを確認しながら、シニア起業の現状把握を行います。とくに注目したいのが60代の多さです。シニア世代にとって起業が身近なテーマであることを確認できます。
またシニア起業家が、「起業になにを求めているか」もデータから読み取れます。「あなたが起業に求めているもの」と照らしあわせながら、シニア起業の実態を掴みましょう。
起業家に占める60歳以上の割合
中小企業庁が公表する「中小企業白書(平成29年版)」を参照すると、起業家の男女別統計における60歳以上の割合は、2012年時点で男性35.0%、女性20.3%です。
男女とも統計を開始した1979年以降増え続けており、とくに男性は各世代の中で60歳以上の割合が最多です。定年後のキャリアと真剣に向きあう人が多い証拠でしょう。
(参照:中小企業白書(平成29年版)第1章 起業・創業 | 中小企業庁)
シニア世代が起業に求めるものは「やりがい」
日本政策金融公庫総合研究所が公表する「シニア起業家の開業〜2012年度「新規開業実態調査」から〜」を参照すると、55歳以上のシニア世代の起業動機は、
- 仕事の経験・知識や資格を活かしたかった
- 社会の役に立つ仕事がしたかった
- 年齢や性別に関係なく仕事がしたかった
がトップ3項目です。この結果からわかるのは、シニア起業家の多くが「これまでの経験を活かし、年齢にとらわれず社会貢献をしたい」と考えていることです。
さらに「家計を維持できるだけの収入があれば十分」と考える人が6割以上を占め(同調査参照)、お金よりもやりがいを重視する傾向が強いことがわかります。
(参照:シニア起業家の開業〜2012年度「新規開業実態調査」から〜 | 日本政策金融公庫総合研究所)
シニア起業のメリット
シニア起業には「シニア世代だからこそ」のメリットがあります。
メリットを自覚的して、うまく活用できれば、若手やミドル世代の起業家と差別化を図りやすいでしょう。シニア起業のメリットを3つ紹介します。
これまでの実績と経験を活かせる
シニア世代には豊富な実績と経験があります。一つの分野で頑張ってきた人は、最長40年以上の経験を持っています。
それだけ長期間仕事にあたれば、失敗も成功も数多く経験するでしょう。失敗を避け、成功を導くノウハウを自然と確立できるのではないでしょうか。
複数の仕事を経験する強み
一つの仕事を極めるのではなく、「さまざまな仕事に従事してきた」経験を持つ人もいるでしょう。その経験も起業の武器です。
起業後は多くの仕事が生じます。とくに一人でビジネスを進める場合は、畑違いの分野にも挑戦せざるを得なくなります。いろいろな仕事の経験は、ひとりでビジネスを進めるさいに有利です。
仕事を創出し安定した生活基盤をつくれる
日本人の寿命は80歳を超え、今では多くの人が「健康なら働きたい」と考えています。
株式会社リクルートジョブズリサーチセンターが公表する「シニア層の就業実態・意識調査2021」によると、「何歳まで働きたいか」という問いに「70歳〜74歳」と答えている人が最多です。
しかし誰しも仕事が円滑に見つかるわけではありません。
同調査によると「シニア層が仕事探しで感じたこと」のトップは「年齢の制限が低い/幅が狭い」ことです。つまり「定年後に仕事をしたくても、仕事が見つかりにくい」状況なのです。
(参照:シニア層の就業実態・意識調査2021 | リクルートジョブズリサーチセンター)
シニア起業はこの現実への一つの対処法を提示します。自分が生きる場所を自分の手で創出すれば、働きたいだけ働けます。他人に依存するのではなく、自身で安定した生活基盤をつくれるのです。
人脈を活かしたビジネスを展開しやすい
シニア世代には豊富な人脈があります。周りを見渡せば、起業をしている友人・知人もいるでしょう。
起業後は、そうした起業家と力をあわせてビジネスを行えます。
自社だけでは規模的に無理な案件でも、複数の会社で出資しあう「ジョイントベンチャー」なら対処できます。協力体制を敷くことで、できる仕事の幅が広がります。
また人材の不足を感じるときにもシニア世代の人脈がものを言います。たとえば営業面で不足を感じたとき、仲間の「営業の専門家」に外注できます。
人脈が豊かなことでビジネスの協力関係を築きやすいのです。
関連記事:50代の起業は遅くない!起業しやすい職種と成功ポイント、注意点#独立・開業ノウハウ
シニア起業のデメリット
シニア起業は良いところばかりではありません。
デメリットにもしっかりと目を向け、対策を練る必要があります。とくに金銭面のリスクには注意しないと、老後の生活設計そのものが崩壊する恐れがあります。
生活資金に手をつけると生活苦に陥る可能性がある
事業を始めるさい、老後のために貯めてきた資金や退職金を元手にする人がいます。起業には大きなお金がかかるため、それ自体は悪いことではありません。考慮すべきは「老後の生活資金の確保」です。
老後の生活資金をわける重要性
経営に絶対はありません。どんなに完璧に事業計画を練っても、思いどおりには進まないこともあります。そのときに生活資金をわけていないと、際限なく貯金を切り崩すことになりかねません。
一度生活資金に手をつけてしまうと、甘えが生じます。「失敗しても自分にはまだお金(生活資金)がある」と思い込んでしまうのです。
それはあなたの老後の生活を支える大切なお金です。気づけば貯金も退職金も失い、路頭に迷う事態になります。
[解決策]資金の使用用途を設定しておく
生活資金と事業資金の混同は、フリーランスや一人起業の会社で起こりがちです。「ここまでは事業に使っても良いお金、ここからは生活資金」と明確な線引きをしておかないと、ずるずるとお金を使ってしまいます。
自分が決めたラインを一円でも超えるなら、「失敗」とみなし撤退する勇気も必要です。引き際の判断を誤り成功する余地のない事業を続けても、生活が苦しくなるだけです。
病気にかかるリスクが高まる
どんなに事業が好調でも、病気になったら継続できません。心筋梗塞や脳梗塞など、命に関わる病気のリスクも年齢に応じて高まります。
若手起業家に劣らぬ野心と情熱を持っていたとしても、健康リスクは格段に高いことを自覚しなければなりません。
(参照:心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況 人口動態統計特殊報告|厚生労働省)
[解決策]検診の受診や保険への加入を行う
健康リスクに備えるには、「健康診断の受診」「就業不能保険への加入」を推奨します。
会社を辞めると検診は自分で受けることになります。国保の場合は自治体から案内が届きます。社保はあなた自身で段取りをしなければなりません。
どちらも忘れずに申し込みを行い、年に一度確実に受診するようにしましょう。
「就業不能保険」は病気や怪我で働けなくなった場合の費用を補填してくれる制度です。
起業後に会社を背負うのはあなたです。あなたが動けなくなったら、収入も途絶えます。月々の費用はかかっても、保険は「万一のセーフティネット」と捉えましょう。
シニア起業の注意点
2つの視点から、シニア起業の注意点を解説します。
シニア起業には幅の広い知識が必要
起業にはメインの仕事以外にも、幅広い業務の知識が求められます。
あなた一人で事業を始める場合、さまざまな業務を自分で行わなければなりません。慣れない仕事は時間もかかり、神経もすり減ります。その結果、本来推進すべき中心業務が疎かになることも考えられます。
[解決策]頼れるところは専門家に頼ることも必要
理想は起業に向けて何年も前から勉強を重ねることです。社内の他部署の仕事を引き受けることや、セミナーやワークショップへの参加も力になります。
しかし時間やお金に余裕がない場合は、悠長に構えてはいられません。その場合は、素直に専門家に頼ることです。苦手な部分は外注し、あなた本来の業務に専念します。
「自分のキャリアなら仕事を取れる」という考えは危険
会社には長い時間をかけて大切に築き上げた「信用」があります。誰が営業に行っても定期的に仕事を取れるなら、それは会社に信用がある証拠です。
シニア世代は経験も実績もあるため、「会社の信用」を「自分の成果」だと思いがちです。起業後に営業に出かけ、仕事が取れない現実を思い知らされることも少なくありません。
[解決策]ブランディングの手法を現在の会社から学ぶ
どんな仕事でも、他者と差別化し自社独自の魅力を作り上げる「ブランディング」が欠かせません。そのお手本になるのは、潰れることなく今日まで仕事をしてこられた「あなたが在籍する会社」です。
会社がどのように顧客を得て、どのように信頼関係を保っているか、よく観察しましょう。
関連記事:シニア起業でやってはいけないことと事業を成功に導くポイント
シニア起業の成功例
シニア起業のメリットを活かし、デメリットを打ち消す努力をすれば、起業で成功する確率は上がります。
実際にどういった人が成功しているか、本章で事例を学びましょう。とくにシニア起業ならではの仕事選びをするさい、お役立ていただけます。
3つのビジネスプラン事例
東京都中小企業振興公社では、55歳以上のシニア世代の起業家を対象に、「東京シニアビジネスグランプリ」を開催しています。毎年多くのシニア起業家(起業予定者を含む)がエントリーし、そのビジネスプランの有用性を競いあっています。
グランプリやファイナリストに選ばれた人たちの事業は、「シニア起業家はなにをすれば社会に受け入れられるか」を示し、「シニア起業の在り方」を考えるヒントを与えてくれます。
これまでの開催時にファイナリストに選ばれた人のプランを見ると、
「高齢母にトキメキを届ける装い&ラボ事業」(合同会社FUKUFUKU-YA)
「金融商品を販売しないライフプランコンサルティング」(株式会社イデココンサルティング)
「NFTと虹彩アート活用のバーチャル墓地」(株式会社viz PRiZMA)
など独自性の高いタイトルが並びます。
ビジネスプランの特徴
これらの特徴は「シニア世代だからこそ気づけた社会のニーズ」に的確に対応していることです。
合同会社FUKUFUKU-YAの深津代表は高齢のお母様の洋服選びに困ったことをきっかけに、80代・90代向けのオリジナルデザインの服を手掛けました。
株式会社イデココンサルティングの竹下社長は、ご自身が老後の資金計画を立てるさいに勉強したことが、「シニア世代の人たちに役立つのではないか」と考え、ライフプランのコンサルティング業務を始めました。
株式会社viz PRiZMAの柿田社長が直面したのは、「墓守がいない」問題です。それが「バーチャル空間のお墓」という発想に結びつきました。
それぞれがシニア世代ならではの切実なテーマに直面したからこそ、発案できたビジネスプランです。
(参照:東京シニアビジネスグランプリ | 公益財団法人東京都中小企業振興公社)
シニア起業で成功を導く仕事の選び方
シニア起業の事例からわかることは、仕事を選ぶときの姿勢です。
シニア世代は会社での経験が長いため、多くの成功体験を積んでいます。そのため、「自分の技術や知識があればうまくいく」と錯覚しがちです。しかし、大切なのは「あなたが実現したいこと」と「社会のニーズ」を合致させることです。
「実現したいこと」と「社会のニーズ」
どんなに技術や知識があっても、そこにニーズがなければ成功しません。「あなたが実現したいことにニーズがあるか」、ないならば「どうすればニーズを創出できるか」を考えましょう。
未経験分野に挑戦するさいの注意点
ときには「実現したいこと」が膨らみ、未経験分野に挑戦することもあるでしょう。
あなたが長年手掛けた事業に近い分野で、勉強すれば身につく内容であれば、大きな問題は起こりません。
たとえばwebデザイナーがwebマーケティングに手を広げても、自学自習できないことはありません。
しかしまったく畑違いの分野で、いきなり起業するのはおすすめできません。たとえばエンジニアが飲食店を開業するような場合です。
起業をする前に、副業やアルバイトで3〜5年の実務経験をつけましょう。その期間をとおして、仕事の流れやお店の運営方法、売れるレシピのつくり方などを学べます。
シニア起業におすすめの業種
シニア起業におすすめの業種を紹介します。
- 飲食業
- コンサルティング業
- 講師業
- 不動産賃貸業
シニア層の強みは経験や知識、人脈が豊富な点です。起業するなら、強みを活かせて、ニーズの見込める業種が適しています。
飲食業には、自宅を改装してカフェや小料理屋を始める方法があります。経営経験がない場合は、フランチャイズに加盟するのも良いでしょう。
専門的な業界・業務の知識や、マネジメント経験を活かして、アドバイス・指導する業種もおすすめです。コンサルティング業や講師業なら在宅でも起業できます。
不動産賃貸業は、家賃収入による収益の確保をしながら、労働の負担が少ない点でおすすめです。
シニア世代は体力が低下傾向にあるため、長時間労働や重労働が必要な業種は適していません。
助成金の考え方と利用しやすい融資制度
シニア起業には多くのお金がかかります。事業を自己資金で賄いきれない場合、融資や助成金に頼ることになります。
すぐに必要なお金であれば、融資制度を利用するのが得策です。一般的にシニア世代は健康不安や事業の継続見込み期間が長くないことから、融資には不利だと言われます。しかしシニアだからこそ受けられる融資もあります。
シニア起業における助成金・補助金の考え方
国や自治体が出す助成金や補助金は、融資と違い返済の必要はありません。しかしこれらはすぐに交付されるものではありません。
後払いが基本で、補填されるのは実際にかかったお金の何割かのみです。毎年継続的に出される確証もなく、年度により募集がない場合もあります。
したがって、助成金・補助金は「運が良ければもらえる」くらいのスタンスで考えるべきです。これをあてに事業を組み立てるのはもってのほかです。
シニア起業には公的な融資制度がおすすめ
シニア起業で利用しやすいのは、日本政策金融公庫か自治体の融資制度です。
シニア世代は一般的に「融資を利用しにくい」イメージがあります。しかし実際は以下の点でほかの年齢よりも有利です。
- 自己資金が多い
- 会社に利益をもたらした十分な実績があり、成功が見込める
融資の審査ポイントは、「自己資金」「信用」「実績」です。シニア世代はこれらを満たす条件が揃っています。
ただし、創業時には銀行など民間機関の融資は受けられません。実績のない会社にはお金を貸さない方針のため、これから開業する会社では審査に通らないのです。
したがって公的な融資制度がおすすめです。利用しやすい制度として「女性、若者/シニア起業家支援資金」を紹介します。
女性、若者/シニア起業家支援資金
日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」はシニア起業の大きな味方です。
一般的に融資が受けづらいとされる女性、35歳未満のヤング世代、55歳以上のシニア世代が対象です。新規開業者はもちろん、事業開始後7年以内なら申請できます。
自己資金が不要なことや返済の措置期間が2年あることなど、起業家が利用しやすいよう便宜が図られています。
(参照:女性、若者/シニア起業家支援資金 | 日本政策金融公庫)
シニア起業で成功する秘訣
シニア起業で成功するための秘訣は2つあります。
- 初期投資を抑えて堅実な経営を目指す
- 事前準備や情報収集を念入りにおこなう
シニア起業では、初期投資を抑えて堅実な経営をおこない、着実に収益を伸ばすことが大切です。
「退職金を全額投資する」「高額な融資を受ける」のは、多大なリスクを伴います。失敗すると取返しがつきません。
小さく事業を始めて、収益が伸びてきてから規模を拡大すると良いでしょう。
事前準備や情報収集も欠かせません。どれくらいの収益が見込めるか、運転資金はいくら必要かを計算し、事業計画を立てておきます。
情報収集では、活用できる助成金や補助金を調べ、フランチャイズと個人開業の比較をします。同業種の起業に成功している人の事例も参考になります。
失敗するリスクを回避し、堅実に収益が得られる方法での起業を目指しましょう。
さいごに
シニア起業には、
- これまでの経験を活かせる
- 老後の生活基盤をつくれる
- 人脈を活かしやすい
などのメリットがある反面、
- 生活資金を区分する
- 健康リスクに留意する
などの注意点もあります。これらの注意点を理解した上で、「実現したいこと」と「社会のニーズ」が重なるよう事業計画を綿密に立てていきましょう。
人生100年時代、シニア起業はめずらしいものではなくなりました。好きな仕事をしながら豊かな老後を送るために、「あなただからできること」で成功を掴み取ってください。
本稿のより詳しい内容は、「DokTech」会員様向けの限定記事でご案内します。
たとえば
- 「50代での起業」にスポットをあてた『50代での起業は遅すぎる?そのメリットとデメリットを解説』
- 成功事例を紹介する『再就職は難しいミドル・シニア世代ならではの起業術!準備で成功を勝ち取った事例集』
- 会社にいるうちに起業マインドを培う『ミドル・シニア世代必見!成功を引き寄せるキャリア自律の5ステップ』
など、シニア世代の皆様に有用な情報が満載です。
DokTechでは今後も「起業準備」「定年後の起業」などをテーマに会員向けの専門記事を多く配信していきます。この機会にどうぞご登録ください。
著者情報
-
独立・起業の最新ニュースや、明日からすぐ使えるテクニックを、分かりやすくご紹介!
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