訪問介護の独立開業|一人でも準備はできる?開所に必要な条件と資金を解説

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訪問介護の独立開業|一人でも準備はできる?開所に必要な条件と資金を解説

更新日更新日:2023.10.2

公開日投稿日:2022.9.5

一人で開業はできない?訪問介護の開業に必要な資金や条件を解説

近年、福祉業界の中でも在宅支援サービスの需要が高まっていることから、訪問介護の開業に興味をもつ人が増えています。訪問介護は、有料老人ホームやデイサービスのように施設を構えなくても良い理由から、介護関連ビジネスの中では始めやすいビジネスです。また、自宅を事務所にすることも可能なので、一人や夫婦での開業を検討している方もいるでしょう。

しかし、訪問介護の事業所は、常勤換算で2.5人以上の配置が必要です。さらに、サービス提供責任者、管理者、介護職員を配置しなければなりません。一人だけでは事業所を運営できませんが、自らが主導して開業準備は進められます。

本記事では、訪問介護の事業所を立ち上げるための条件や開業資金をテーマに、わかりやすく解説します。さらに経営者の年収やこれからの将来性にも言及します。これらを学んでいただくことで、「高齢者が増えているから」「立ち上げやすいから」という理由だけでなく、本当に訪問介護が参入すべき事業なのか、どうすれば開業・運営に成功するのかまでを理解して、開業に向けた動きができるようになります。

目次

訪問介護サービスとは

訪問介護サービスとは

訪問介護サービスとは、訪問介護員(ホームヘルパーや介護福祉士)が利用者のお宅を訪問し、身体介助・生活介助を行うサービスです。

具体的には

  • 入浴や食事、トイレなどの介助
  • 掃除・洗濯
  • 病院・クリニックへの通院介助

などのサービスを含みます。介護業界では、介護保険法のもとで行われる、指定居宅サービスとして知られています。

利用者の自立した生活が訪問介護サービスの目的

利用者は、要介護・要支援認定を受けた方が対象です。おもに要支援状態にある65歳以上の高齢者、要支援状態にある40歳以上65歳未満の方が、この条件に該当します。

要介護者・要支援護者が自立して生活できるよう支援することが、訪問介護サービスの目的です。なお服薬管理などはできますが、医療行為・ケアは提供できません。

加熱する訪問介護サービス市場は参入のチャンス

高齢者の増加により、介護サービスの市場は年々拡大しています。とくに近年は、高齢者が住み慣れた地域での在宅支援が重視されている背景から、訪問介護サービスの需要が高まっています。

市場の過熱ぶりから、訪問介護を開業できないかと考える人も多くなっています。

訪問介護サービスのビジネスとしての特徴は、介護施設のように大きな建物がなくても始められることです。初期投資が少なくて済むため、業界の起業経験がない人や、スモールスタートを希望する方も参入しやすいでしょう。

ただし訪問介護事業所は開設の準備をするにあたり、条件があります。詳しく説明します。

訪問介護の開業は一人ではできない

訪問介護の開業は一人ではできない

現在、介護関係の仕事をしていて、訪問介護サービス事業で独立を考えている方もいるでしょう。

結論から言うと、訪問介護サービスは、一人で開業できません。職員の人数配置の問題もありますが、個人事業主では開業が難しいため、法人を立ち上げる必要があります。

「介護サービス事業者の指定」で、指定拒否の要件として「法人でないとき」と記載されています。

参照:事業者規制の現状について│厚生労働省

ここでいう法人には、いくつか種類があります。以下では、3つの法人の特徴と注意点を紹介します。

法人を立ち上げる

法人には、株式会社、一般社団法人、医療法人、NPO法人、合同会社、社会福祉法人など、さまざまな種類があります。訪問介護サービスでは、どの法人でも開業できます。

この中でも法人形態として多くあるのは、「NPO法人」「合同会社」「株式会社」です。この3つの特徴と、注意すべき点は以下のとおりです。

法人特徴注意すべき点
NPO法人・設立費用が安価(資本金・税金0円)
・非営利法人(営利を目的としていない)
・設立に人員確保が
必要
(理事3名、
監事1名)・
設立に時間がかかる(約5か月)
合同会社・営利法人・小規模で始めやすい・設立費用が比較的安価・設立手続きが簡単・認知度が低い・
事業拡大は不向き
株式会社・営利法人・認知度が高い・事業拡大しやすい・設立費用が高額
(約25~30万円)

一人で気軽に開業したいと考えている方には合同会社、事業を成功させたい目標がある方には株式会社が適しています。

訪問介護開業の3つの条件

訪問介護開業の3つの条件

訪問介護サービスで開業するにあたり、3つの条件を満たしている必要があります。

  1. 人員の基準
  2. 設備・備品の基準
  3. 運営に関する基準

それぞれ詳しく説明します。

人員の基準

訪問介護では、管理者、サービス提供責任者、訪問介護員の3つの職種に定められた人数の人員を配することが必要です。

管理者とは事業所の管理者であり、原則専従で常勤です。サービス提供責任者または訪問介護員との兼務も可能です。

サービス提供責任者は、利用者40名までは1名、41~80名で2名、81~120名で3名のように、利用者数に応じて増員しなければなりません。

また、介護福祉士であり厚生労働大臣が定めた基準を満たしており、指定訪問介護の職務に専従していなければなりません。

介護者または訪問介護員と兼務が可能です。訪問介護員は、常勤換算で2.5名以上必要です。初任者研修修了またはヘルパー2級以上の介護資格または看護師資格等が必要です。

人員の基準が、訪問介護を一人では開業できない大きな理由です。

訪問介護サービスの事業所で、一般的な人員配置は、介護福祉士1名、初任者研修修了者3名です。欠員が出てしまっても事業を続けられるように非常勤の従業員を1名多く雇っていることが多いからです。

設備・備品の基準

訪問介護の事業所は、介護施設や通所施設などに比べて設備に関する基準は細かく定められていません。ただし、厚生労働省令の設備基準では、以下のように定められています。

第三節 設備に関する基準
(設備及び備品等)
第七条 指定訪問介護事業所には、事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の区画を設けるほか、指定訪問介護の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない。」

引用:○指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準│厚生労働

次のことに注意が必要です。

  1. 事務所の広さ
    職員3~5名の机や、いすをおけるスペースがあること。さらに書庫棚を配置するスペースや相談スペースと併せて10畳程度が必要です。
  2. 相談スペースを設ける
    四方をパーテーションで囲ったり、部屋を分けたりしてプライバシーの配慮をします。また4人が無理なく入れるスペースを設けます。新規利用申し込みの受付や、利用者・ご家族の相談、職員の打ち合わせの場所として利用します。
  3. 衛生用品を設ける
    感染症対策に配慮しなければなりません。トイレの手洗い設備以外に、手指消毒のための洗面台を設けます。また感染症対策のため液体せっけん、消毒液、ディスポーサブル手袋やペーパータオルなどの用意が必要です。
  4. 鍵付きの書庫
    利用者のファイルなど個人情報保管のため鍵付きのものが必要です。
  5. 備品
    訪問介護の運営上で必要な机、いす、電話、FAX、プリンター、パソコン、タイムカード、さらに必要に応じて自転車や自動車も加わります。その際には駐輪場や駐車場も用意しなければなりません。

建物の規定はとくになく、上記の条件を満たしていれば良いでしょう。

自宅を事務所にすることも可能ですが、自治体によりますので確認が必要です。この他にも各自治体によって独自のルールがあるので相談してみましょう。

運営に関する基準

訪問介護の開業にあたり運営上求められる基準です。

この基準は多岐にわたり、都道府県によっても内容が異なることがあるため、一部をご紹介します。

  • 利用申込者に対するサービスの提供内容および手続の説明および同意
  • 提供拒否の禁止
  • 利用料などの受領
  • 利用者に関する市町村への通知
  • 適切な訪問介護の計画書作成および利用者の同意
  • 訪問介護員の健康状態の管理や設備、備品などについての衛生管理
  • 同居家族へのサービス提供は行わないこと
  • 緊急事態への対応が整備されていること(利用者の病状急変時の主治医への連絡など)
  • 運営規程の概要、訪問介護員の勤務体制、苦情処理体制、秘密保持等を利用申込者に説明し、同意を得てサービス提供を行なうこと

これらを申請時に文書にまとめ、開業後は実績書類を作成し、事業所に掲示、保管が必要です。

一人で訪問介護を開業する資金の目安

訪問介護の開業に必要な資金の目安

訪問介護事業の開業には、規模や設備により金額は異なりますが、最低でも150万円程度は必要と言われています。

規模が大きくなれば1000万円ほど必要になる場合もあります。必要資金の内訳を紹介します。

法人設立費用

法人格を取得するために印紙代や定款代などがかかります。

費用は法人の種類で違います。株式会社は約30万円、合同会社と一般社団法人は約10万円です。NPO法人設立費用はさほどかかりませんが、手続きに時間がかかります。

介護事業の指定を受けるための書類作成で2週間から1ヶ月、審査で1ヶ月はかかるため、ほかの手続きを含めると3か月は要します。

事務所の物件取得費用

自宅を事務所として利用する場合には費用を抑えられます。

事務職を賃貸で契約する場合、地域や立地により金額は異なりますが、20万~30万円から100万円ほどの物件取得費用がかかります。

物件取得費用には、保証金や敷金・礼金、仲介手数料、前家賃などが含まれています。また、設備に関する条件を満たす条件の物件が必要です。

人件費

常勤(日勤)のホームヘルパーの給料相場は、31万4,590円、非常勤の場合は20万1,120円が平均です。

3人分の人件費として月80万円前後がかかります。介護報酬は翌月請求で支払いが翌々月なので2~3か月分は用意しておきましょう。

参照:令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果│厚生労働省

車両購入費

訪問介護では利用者の居宅に伺うので移動手段も必要です。

車両購入費として軽自動車の場合、新車を導入するなら100万~200万ほどかかります。さらに車両を管理する駐車場も必要です。

訪問介護の指定申請費用

訪問介護事業の開業には、都道府県や市町村に介護事業者として指定を受けなければなりません。

申請の条件は、基本方針や人員基準、設備・運営に関する基準を満たすことです。費用は申請先によって異なりますが、3万円ほどです。

設備・備品の購入費

事務所での作業、連絡などに使用するいす、机、パソコンやFAX、電話機、複合機、鍵付き書庫などが必要です。

訪問時に使用する車両がある場合は、車両維持費も支払います。購入するものによって金額は変わりますが、50万円前後が目安です。

一人で訪問介護を開業するのに利用できる融資

融資も検討しよう

訪問介護の事業を小規模から開業したとしても、自分一人だけの資金で始めるのであれば、まとまった金額が必要です。

個人の資金では賄えない場合は、日本政策金融公庫の融資や小規模事業者持続化補助金などの融資制度の検討もできます。

日本政策金融公庫

日本政策金融公庫がこれから新たに事業を始める、または事業を始めてから7年以内のものを対象とした新規開業資金を利用できます。

個人企業や小規模企業向け融資で、おおよそ700万円の融資を受けられます。

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は、商工会議所の管轄地域内の小規模事業者であるか、一定の要件を満たした特定非営利活動法人に対する補助金です。

経費の一部を補助してくれるもので、実際に使った費用のうち最大50万円までの補助金が支給されます。

一人で訪問介護を開業したオーナー平均年収

訪問介護を開業したオーナー平均年収

訪問介護サービスを開業した場合、オーナーの年収は400万〜1000万円ほどが目安です。

事業の展開によっては、それ以上も目指せます。年収に幅があるのは、事業の規模や地域などによって、得られる収益が大きく異なるからです。

事業の規模が大きくなれば、収入も増えやすくなりますが、人件費など運営コストもかさみます。

また、訪問介護員の3割以上が介護福祉士など、一定の条件を満たすことで介護報酬の最大20%が加算される「特定事業所加算」があります。

加算の知識を深めて、効率的に業務を運営できれば、利益も上げやすくなるでしょう、

はじめて訪問介護を開業する人には、まず最低限の人数で、自宅を事務所にするなど初期費用を抑え小さく始めることをおすすめします。

ビジネスが軌道に乗れば、従業員を増員するなど、事業を拡大していきましょう。

放課後等デイサービスの開業・個人とフランチャイズ加盟の違い

個人開業とフランチャイズ加盟の違いとメリット・デメリット

訪問介護サービスで開業する方法は2通りあります。

個人で開業するか、フランチャイズ加盟して開業するかです。両方にメリット・デメリットがあるので紹介します。

フランチャイズは、フランチャイズ本部に加盟金・ロイヤリティを支払い、加盟店として経営できるビジネスモデルです。

介護分野でも、デイサービスや訪問介護・訪問入浴、ショートステイなどの業態でフランチャイズ展開をする企業は増えています。

フランチャイズ本部からのサポート体制が整っているためには、一人での開業を考えている方には適したビジネスです。ただし、メリットだけではないので詳しく見ていきましょう。

個人開業のメリット・デメリット

<メリット>

  • 低コスト
  • 自分の裁量で経営できる
  • 知識が身につく

個人で開業の場合、コストを最小限に抑えることが可能です。また自分の裁量で経営できます。手続きなど膨大な作業ですが、個人で行うため知識が身に付きます。

<デメリット>

  • 開業までのハードルが高い
  • 営業力の不足
  • 経営ノウハウ不足

開業までには、書類の記入、申請、手続きなど膨大な作業があり時間と労力を要します。

また個人開業の場合営業力や経営のノウハウが不足していることが考えられます。利益を出せるようになるまでに時間がかかる可能性があるでしょう。

フランチャイズ加盟の開業メリット・デメリット

<メリット>

  • 人材、物件などをそろえやすい
  • 手続きの手間を省ける
  • 開業後もアドバイスを受けながら経営できる

書類の記入や複雑な手続きを個人で行うことはとても大変ですが、フランチャイズ加盟をすれば、ノウハウのある本部が手続きの仕方や書類の記入など実務をサポートしてくれます。

開業までの時間が短縮されるでしょう。

また介護業界は人材を集めることが大変といわれています。フランチャイズ加盟なら人材採用もしやすいでしょう。開業後には経営アドバイスをもらえるため、失敗しにくいのも魅力です。

<デメリット>

  • ロイヤリティや加盟金など費用がかかる
  • 経営方針は本部に従う必要がある

関連記事:フランチャイズのメリット・デメリット│FC業界のプロが解説

面倒な手続きなどを任せる代わりに毎月ロイヤリティを支払う必要があります。

また、経営方針に関しても本部に左右されます。「せっかく起業したのに自分の思い通りにできない」ことにならないように、本部選びが大事になります。

訪問介護の集客を成功させるためのポイント

訪問介護の集客を成功させるためのポイント

開業して一番悩むことは集客ではないでしょうか。実際、集客をうまくできるか否かが訪問介護事業の成功を左右します。

訪問介護の事業所数は、 35,311 事業所(2017年時点)あり、年々増加しています。福祉事業の中でも開業のハードルが低い一方、競合の事業所が多いことで事業存続が難しいことが訪問介護ビジネスの特徴です。うまく差別化ができなければ、集客で苦労します。

参照:介護サービス施設・事業所調査の概況│ 厚生労働省

訪問介護ビジネスで、効果的な集客方法はエリアマーケティングです。エリアマーケティングとは、地域・商圏の特性にあったマーケティング戦略を考えて、展開する手法です。

エリアマーケティングで戦略的に集客をする

具体的には、開所エリアにある医療機関や地域連携室・地域包括支援センターなどへ事業所の情報を定期的に提供したり、地域で開催される在宅ケア研修会に参加して、情報提供を行ったりする方法が挙げられます。

電話やFAX、DMも活用し、見込み顧客に対してこまめに接触することが重要です。

最近では、ホームページやSNSを活用する事業所も多くあります。とくにSNSは、新規顧客だけでなく、利用者との連絡や関係性の構築・継続にも有効です。

訪問介護の利用者の平均的な利用年数は、10年前後です。

新規顧客を獲得しても、継続したエリアマーケティング活動が欠かせません。事業所は、継続して1日に5件~10件を回れるよう同エリアで効率的に集客する工夫が求められます。

関連記事:SNS集客7つのコツと成功事例!口コミを生み出すポイントも解説

介護業界・訪問介護ビジネスの将来性

介護業界・訪問介護ビジネスの将来性

日本はすでに超高齢社会です。2025年には団塊世代が75歳以上になり、要介護者の激増が予想されます。

近い将来、介護難民や介護崩壊などの問題がより深刻化することも懸念されています。たとえば、介護施設への入居申込者の待機者が増えるなどの問題が挙げられます。

地域包括ケアシステムの構築を政府が推進

介護業界では、現在慢性的な人手不足や介護保険料の増加など課題もある一方、さらなる市場の拡大が見込まれます。とくに訪問介護は、将来性のあるビジネスだと考えられます。

その理由の1つが、2040年をめどに高齢者の尊厳保持と自立支援のため、地域包括ケアシステムの構築を政府が推進していることです。

地域包括ケアシステムとは、高齢者が最期まで住み慣れた土地で安心して暮らせるように医療・介護・住まい・予防・生活支援が一体となったシステムです。このシステムの一役を担うのが、訪問介護です。

とくに、これからの訪問介護の事業所は単体行動ではなく、医師、看護師、リハビリテーションの専門職員などの医療従事者や、地域の民生委員・NPO法人の職員など多職種連携により、高齢者ケアに取り組む役割が求められていくでしょう。

まとめ

住み慣れた地元で、そして自宅で安心して過ごしたい高齢者にとって必要不可欠な訪問介護サービスの開業方法や、集客を成功させるポイントを紹介しました。

大規模な事業所を構えることなく開業できる訪問介護サービスは比較的新規参入がしやすいでしょう。

ただし、競合他社が多いため、サービスの差別化やエリアマーケティングなどの対策が欠かせません。1事業所では、売上の限界はあります。

しかし、事業を軌道に乗せれば、事業を拡大させられる可能性も出てきます。

まずは小規模から始めるための事業計画を立ててみることから始めてみてはいかがでしょうか。

介護ビジネスをもっと学びたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください!
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DokTech編集部
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